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東京地方裁判所 昭和48年(むのイ)252号 決定 1973年3月14日

被疑者 吉沢繁行こと吉沢昌明

主文

原裁判を取消す。

理由

一、申立の趣旨および理由の要旨

被疑者は、罪を犯したと疑うに足る相当な理由があるのみならず、刑事訴訟法六〇条一項二、三号に該当し、かつ逮捕手続になんらの違法も存しないにもかかわらず、逮捕手続が違法であるとして、勾留請求を却下したことは判断を誤つたものであるから、右裁判を取消したうえ、勾留状の発付を求める。

二、当裁判所の判断

一件記録によれば、被疑者は、昭和四八年三月九日東京都北区東田端一丁目所在の国電田端駅構内において、これより先に脅迫を加え、金員の交付を要求していた被害者と、右金員の受け渡し場所として指定した同所で面談中、事前に被害者から右被害の申告を受けてその場に待機していた警察官により、恐喝未遂の現行犯人として逮捕されたものであること、そして同月一一日、被疑者につき、右恐喝未遂のほかさらに、強制わいせつの事実を加えて勾留請求がなされたが、翌一二日、原裁判官において右逮捕手続が違法であることを理由にこれを却下する裁判がなされたものであることがそれぞれ明らかである。

そこで逮捕手続の適否につき判断するに、右逮捕の際、被疑者はすでになした脅迫に基づき、明示的にではないにせよその場で被害者に対し金員の交付を要求していたものとみられるから、現行犯人逮捕についてのいわゆる犯罪の現行性の要件は具備していたというべきではあるが、しかし、前記警察官による被疑者を現行犯人とする認定が、逮捕当時の状況に照らして支持されるものであるか否かを検討するに、外観上現行犯人であることが必らずしも明白であるとは云えない本件において、その実際的な処理として、令状主義の理念に則り緊急逮捕の途を選ぶことがより適切な方法であつたと云い得るにしても、他面、本件においては、右現場の状況に加えて逮捕者によつて聴取された前述の被害者による事前の申告内容や、その場において同人が申し述べたことなどを併せて判定をするならば、逮捕者が被疑者を現行犯人と認めたのはあながち不当であるとは云い難く、かつ前記現場の状況も、右判定を担保する程度に犯罪を推定し得る客観性を備えていたとみられるのであつて、かかる具体的状況のもとにおける本件現行犯人逮捕手続は、必らずしも許容され得ないものではないと解される。

さらに、一件記録により疎明された本件事案の性質・態様等に照らし、勾留の理由ならびに必要性も十分に認められるので、本件準抗告は理由がある。

三、適用法条

刑事訴訟法四三二条、四二六条二項

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